あのときの王子くん⑨

Uncategorized

LE PETIT PRINCEアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ Antoine de Saint-Exupery大久保ゆう訳

 星から出るのに、その子はわたり鳥をつかったんだとおもう。出る日のあさ、じぶんの星のかたづけをした。火のついた火山のススを、ていねいにはらった。そこにはふたつ火のついた火山があって、あさごはんをあたためるのにちょうどよかった。それと火のきえた火山もひとつあったんだけど、その子がいうには「まんがいち!」のために、その火のきえた火山もおなじようにススをはらった。しっかりススをはらえば、火山の火も、どかんとならずに、ちろちろとながつづきする。どかんといっても、えんとつから火が出たくらいの火なんだけど。もちろん、ぼくらのせかいでは、ぼくらはあんまりちっぽけなので、火山のススはらいなんてできない。だから、ぼくらにとって火山ってのはずいぶんやっかいなことをする。

「〈火のついた火山のススを、ていねいにはらった。〉」のキャプション付きの挿絵

〈火のついた火山のススを、ていねいにはらった。〉

 それから、この王子くんはちょっとさみしそうに、バオバブのめをひっこぬいた。これがさいご、もうぜったいにかえってこないんだ、って。こういう、まいにちきめてやってたことが、このあさには、ずっとずっといとおしくおもえた。さいごにもういちどだけ、花に水をやって、ガラスのおおいをかぶせようとしたとき、その子はふいになきたくなってきた。
「さよなら。」って、その子は花にいった。
 でも花はなにもかえさなかった。
「さよなら。」って、もういちどいった。
 花はえへんとやったけど、びょうきのせいではなかった。
「あたし、バカね。」と、なんとか花がいった。「ゆるしてね。おしあわせに。」
 つっかかってこなかったので、その子はびっくりした。ガラスのおおいをもったまま、おろおろと、そのばに立ちつくした。どうしておだやかでやさしいのか、わからなかった。
「ううん、すきなの。」と花はいった。「きみがそのことわかんないのは、あたしのせい。どうでもいいか。でも、きみもあたしとおなじで、バカ。おしあわせに。……おおいはそのままにしといて。もう、それだけでいい。」
「でも風が……」
「そんなにひどいびょうきじゃないの……夜、ひんやりした空気にあたれば、よくなるとおもう。あたし、花だから。」
「でも虫は……」
「毛虫の1ぴきや2ひき、がまんしなくちゃ。チョウチョとなかよくなるんだから。すごくきれいなんだってね。そうでもしないと、ここにはだれも来ないし。とおくだしね、きみは。大きな虫でもこわくない。あたしには、ツメがあるから。」
 花は、むじゃきによっつのトゲを見せた。それからこういった。
「そんなぐずぐずしないで、いらいらしちゃう。行くってきめたんなら、ほら!」
 なぜなら、花はじぶんのなきがおを見られなくなかったんだ。花ってよわみを見せたくないものだから……。

つづく…

タイトルとURLをコピーしました